放射線治療の故郷

~備忘録!日常の診療でフッと思った疑問の解消に~

医学生が知っておくべき放射線治療の知識①〔医学総論〕

医学生

医学生を対象として、医師国家試験出題基準の用語解説と各論において放射線治療関連で出題されそうな箇所を取り上げた。さらに学ぶには、上述したマニュアルを読むとともに、取り上げた参考文献を読まれることをお勧めする。

医師国家試験出題基準に取り上げられているキーワードの解説

医学総論

A. 放射線感受性
放射線感受性と放射線反応性とは異なる。たとえば、中枢神経悪性リンパ腫は生存中央値が2年に届かないきわめて悪性の腫瘍である。

しかし、初期効果はよく、放射線治療により腫瘍は一旦縮小、消失し症状も改善するが、すぐに再発する。これは、放射線の反応性はよいが、感受性が悪い例である。

A-1 正常組織の放射線感受性
一般に分裂頻度が高いものは感受性が高く、低いものは低い。これがベルゴニートリボンドーの法則である。また、形態的、機能的に未分化な細胞は感受性が高い。例外も多いが、放射線感受性を推測する上で役立つ法則である。

A-2 腫瘍の放射線感受性
腫瘍の組織型、分化度が大きく影響する。高感受性組織から発生した腫瘍は高感受性の傾向をもつ。

A-3 放射線治療可能比
正常組織耐容線量/腫瘍致死線量と定義され、これが高いほど治療がしやすい。

 

B. 放射線効果の修飾

B-1 酸素効果
低酸素状態では放射線感受性が低くなる。これを数値化したものが酸素効果比(oxygen enhancement ratio:OER)で、低酸素下での等効果線量/酸素下での等効果線量で表す。

B-2 放射線増感剤
放射線と同時に投与された時にその効果を高める薬剤。代表的なものに低酸素状態が存在する腫瘍組織に対して酸素類似の効果を示すミソニダゾール(Misonidazol)があるが、臨床試験で有効性は証明されていない。


B-3 温熱効果
熱に対する細胞の生存曲線は放射線のそれと類似している。しかし、低酸素状態にある細胞は栄養欠乏状態にあるために熱に対する感受性が高くなる。このため、放射線治療との併用は有効である。

B-4 細胞周期
放射線感受性は細胞周期によって変化する。G2、M期で感受性が高く、S期の終わりとG1初期が低い。

B-5 線エネルギー付与(LET)
放射線が飛程の単位長さあたりに周囲に付与するエネルギー。これが高いほど生物学的効果比(relative biological effectiveness RBE)が高くなり、低酸素状態においても殺細胞効果が高まるためOERが低くなる。

B-6 線量率
単位時間当たりに与える線量。

 

C. 空間的線量分布
表示法として深部線量百分率、等線量曲線がある。

C-1 深部線量百分率
組織の吸収線量を深さの関数としてプロットしたもの。

C-2 等線量曲線
等高線のように等線量領域を結んだ図。

C-3 線量計算
吸収線量を計算により求めること。さまざまな計算アルゴリズムが開発、改善されて、精度が向上している。

C-4 標的体積の決定
照射の標的となる体積。臨床標的体積とは腫瘍のミクロの進展も考慮に入れて、照射すべき体積であり、これを実現するためにこれにマージンをつけて照射する。

 

D. 時間的線量配分
一般に1回で照射する1回照射よりも何回にも分けて照射する分割照射の方が放射線生物学的に効果的とされ、これが標準となっている。最適な分割方法は、腫瘍の生物的特徴などのさまざまな因子により異なる。

D-1 回復・再増殖・再酸素化・再分布(4R)
放射線生物学でいう4Rに回復(repair)、再増殖(repopulation)、 再酸素化(reoxygenation)、再分布(redistribution)がある。放射線治療はこれらの現象を巧みに利用して、治療効果を上げるものである。

大量の放射線が当たると細胞は致死障害を受けるが、その手前の量では回復可能な亜致死障害にとどまる。このときの腫瘍より正常組織の回復が早いことを利用して治療するのが分割照射である。

放射線治療において治療期間が長くなると効きが悪くなるのは治療中においても腫瘍が再増殖するためである。腫瘍の中心部は低酸素状態になっており、放射線治療の効果が低下する。

放射線をあてて腫瘍の外側の効きがよい酸素化領域の細胞が死滅脱落すると、低酸素領域であった場所にも酸素がいきわたるようになる。この部分が酸素化領域になって、放射線が効きやすくなる。分割照射は次々と酸素化領域に代えていくことにより効果的な治療となる。

細胞周期により放射線の感受性が変化する。最初の照射で感受性の高い周期の細胞が死滅するために細胞の周期が一定の状態になる。これを再分布と呼ぶ。時間をおいてこれらの細胞が感受性の高い周期に移動したとき照射すれば効率よく治療することができる。

D-2 通常分割照射
1回2Gy程度の線量を毎日照射する方法。

D-3 多分割照射
放射線生物学でいう回復の現象を利用して、治療期間を変えずに分割回数を増やし、総線量を増やすことによって正常組織の有害反応を増加することなく抗腫瘍効果を上げることを期待する方法。例)1回線量を1.2Gy、1日2回、総線量72Gyでは、通常の1日1回2Gy、総線量60Gyの通常治療と同じ6週間で72Gyに線量を上げることができる。

D-4 少(寡)分割照射
1回線量を高くして治療期間を減らすことによって、腫瘍の再増殖を抑えて治療効果を高めようとする方法。

 

E. 装置と治療技術

E-1 外照射
体の外からX線電子線、粒子線などの放射線を照射する治療方法で、一般にリニアックが用いられている。

E-1-1 画像誘導放射線治療(IGRT)
画像技術を用いて正確な位置合わせをして高精度の照射を実現する方法。

E-1-2 定位放射線治療
小腫瘍に対して正確な画像計測を行って、3次元的に一点に放射線を集中して腫瘍に高線量を投与し、周囲の正常組織の線量を減らす方法。

E-1-3 強度変調放射線治療(IMRT)
照射方法を決めてからその方法で得られる線量分布の是非を評価するという従来のが従来の方法であった。

これに対してIMRTは、腫瘍への投与線量を処方するとともに周囲の正常組織の線量制約を定め、コンピュータでこれを実現するための最適解を逆計算して設定する方法であり、原理的に考えると究極的な治療計画法である。これにより、さらに優れた線量分布が得られるようになった。

E-1-4 重粒子線治療
重粒子とは陽子あるいはそれ以上の重い粒子。この代表である陽子線、炭素線にはブラッグピークという、エネルギーに対応した一定の深さで吸収線量のピークが生じるという特性がある。これと腫瘍を一致させれば、腫瘍に高線量、周囲の組織に低線量の照射が可能となる。

E-2 密封小線源治療
放射線同位元素を密封した線源を用いて、腫瘍に高線量を投与する治療法。距離の二乗に反比例して線量が低減するため、線源の近くに存在する腫瘍には高線量が照射され、遠くに位置する正常組織の線量が低減するという優れた線量集中性をもつ。

E-3 放射線同位元素(RI)内用療法(内照射療法、内部照射療法)
放射線同位元素を目的の組織に集積させ、その内部から治療しようとする方法。代用的なものに甲状腺癌のI-131療法、Sr-89療法がある。

前者は、I-131は甲状腺細胞に特異的に取り込まれ、そこから出され飛程の短いベータ線により治療するものであり、甲状腺に集中的に治療することができる。特に、甲状腺癌の多発肺転移では有効性が高い。良性疾患のバセドウ病に対しても内用療法の適応がある。

後者は、Caの代わりに骨に取り込まれ、同じく飛程の短いベータ線で治療するもので、多発骨転移に対する有効な治療法である。

E-4 治療の質と安全管理

 

F. 放射線治療の適応
放射線治療の特長は適応範囲が広いことにある。部位別には頭頂から足先まで適応となり、小児から高齢者において手術が不可能な状態においても適応で、根治治療から姑息治療まで幅が広い。この理由は放射線が局所療法であり全身的な影響が少ないことによる。

F-1 根治的照射
治癒を目的とした照射。腫瘍全体を照射範囲に含み、腫瘍を制御できる線量を投与できることが必要である。

F-2 準根治的照射
臨床的に見て治癒を期待できないが、照射体積の腫瘍が根絶されると仮定すれば治癒する可能性のある照射。

F-3 対症的照射
延命あるいは、疼痛や出血などの症状を緩和する目的で行う照射。

 

G. 集学的治療
手術療法、化学療法、ホルモン療法などのいくつかの治療を組み合わせて効果を上げようとする治療法である。

G-1 術前・術中・術後(周術期)照射
術前照射は手術前に照射することにより、腫瘍の切除を容易にし、腫瘍切除の根治度を上げて治療成績の向上を図ろうとする治療法。

術後照射は、術後に残存していることが予想される範囲に照射することによって再発率を下げて治療成績の向上に結びつけようとする治療法で、手術所見を加味して照射範囲を決定できるので無駄な照射を減らせるという利点をもつ。

術中照射は、術中に照射したくない消化管などを避けて照射できるという利点をもつと同時に、1回で照射せざるを得ないという欠点をもつ。

G-2 化学療法との併用
化学放射線療法は多くの局所進行癌(腫瘍学的に手術の適応がないが、局所に腫瘍が留まっている状態)に対して、有効性が示されている。今後は分子標的薬剤との併用が期待される。

 

H. 照射の有害反応
放射線治療の効果がでるには時間がかかるのと同様に有害反応が出るのにも時間がかかる。この中で放射線治療中にでる初期有害反応の機序は炎症であるので、治療後は治癒する。

これに対して治療が終わってしばらくしてから出現する遅発性有害反応の機序は変性であるためにしばしば進行性である。したがって、放射線治療はこの遅発性有害反応を起こさないように治療をする必要がある。